2014年10月6日月曜日

『空き家問題』を新たな住宅スタイルを造るきっかけに。

昭和30年代のいはゆる高度成長期に区画分譲されたのであろう、住宅団地があります。
整然と戸建住宅が並び、生活感がただよっているようでいて、よく見ると空き家も目立ちます。
空き家の中には解体され、更地になった場所に、また同じような新築住宅が造られていく‥。
という、見方よっては不思議な光景も目にします。

しかし、放置された空き家は、火事や倒壊・犯罪の温床にもなり、もっと深刻です。

都内大田区にある事務所の近くにも、長らく朽ち果てた木造アパートが放置されていました。
自治体の空き家に対するケーススタディーとして、メディアでも大きく取り上げられましたが、
結局、大田区による行政代執行で解体されたようです。周辺の方々には、ひとまず安心です。

昨今、新聞やTVでも大きくでも取り上げられるようになった、全国に広がる 空き家問題。
今後、とてつもなく大きな社会問題になってしまうのでは、と危惧しております。

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この7月 総務省の発表では。
全国の空き家は820万戸。総住宅数に占める割合13.5%と、ともに過去最悪だそうです。

先日の野村総研の発表では、2023年の空き家率は 21.0%にも上ると予想されています。
…ただこれには2つのシナリオがあるようです。
 単独世帯が増えて世帯数の増加スピードが高まると、逆に空き家率の増加が鈍化します。
 現在の13.5%という空き家率から、増加が鈍化した場合は2023年の空き家は13.7%。
 ただ、2020年ピークに世帯数は減少に転じます。
 世帯数減少を考慮し、住宅の除却・減築を進めなければ21.0%。5軒に1軒は空き家。

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空き家は、積極的に活用しようとする取り組みもあります。
使われなくなった空き家を、借り上げた自治体や、空き家の持ち主本人が大家さんとなり、
基本的に、原状回復の義務なしで賃貸するという方法。入居者はDIYでリフォームします。
空き家にとっても、入居者にとってもハッピーでユニークな賃貸借住宅で、いいですね。

ただこれは、いまある空き家の利用方法で、直接的に空き家を減らす手段にはなりません。

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空き家が増えていく メカニズム はわかっています。
税制や人口減少などの要因もありましょうが、ようは住宅を造りすぎているのです。

住宅の生産は
家電や自動車と同じく、我が国の産業構造の中にガッチリ組み込まれてしまっています。
造りつづけていないことには、経済が回らないのです。それは、景気状況の判断として
住宅着工数の推移や比較が取り上げられていることからもわかります。

日本の住宅政策で、住宅総量目安にて、毎年の住宅着工数をコントロールしては‥。
という考え方もあります。 (※参照:『「空き家」が蝕む日本』長嶋修 ポプラ社)
無計画に、住宅はとにかく造らんかな売らんかな‥ではなく。西欧の多くの国のように
10年間の住宅需要や住宅建設見込みを推計し、10年間でどれくらいの数の新築住宅を
建てるのかといった、大まかな計画をたてるのです。
かりに、10年で世帯数の10%分の住宅を造ることにすれば(人口動態などを考慮せず
単純に計算すると)100年で全世帯分の住宅ができることになります。
住宅の寿命を100年程度とすれば、そのサイクルと一致するというわけです。
もちろん、住宅の寿命や割合をどのように設定するかは、各国の判断で決められます。
合理的で、よい考え方ですね。

ただ(住宅産業界の肩を持つわけではないのですが‥)
現時点で、この手法をそのまま我が国にあてはめるのには、違和感もあります。

たとえば、都市部でも防災の観点から不燃化建築への建替えが急務な木造住宅群や、
地方にいけば、通柱も筋交いもない粗悪な建築群。つまり(いやな言い方なのですが‥)
淘汰されるべく住宅建築も、悲しいかな沢山あるのも現実でしょう。
長持ちする良質な新築住宅であるのなら、まだまだ造りつづける必要はあるはずです。

そして、長持ちする良質な住宅を新築していこう。という取り組みの政策もあります。
住宅性能評価制度をベースとした 長期優良住宅 の制度です。
これは、新築住宅一辺倒であったこれまでの住宅市場に、中古住宅も流通させてよう、
という不動産業界の改革とリンクするもので、これも基本的に支持できるところです。

ただ
私には、住宅の『長期優良』とするべく基準項目には、まだ検討の余地があるように思えます。

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空き家を減らす。
そのためには、新規住宅着工数は徐々に減らしつつ、出来上がった住宅は長持ちをさせること。
それには政策や産業構造の改革ばかりでなく、私達の価値観も変化していかなくてはならない。
私は、そう考えています。 
必要なことは 2つです。

ひとつには
古いもの、または古いものをアレンジして使う。ということの価値を、もっと高めていくこと。
せっかく造った住宅建築は、出来るだけ次世代に引継ぐことを“カッコよし”とする価値観です。

住宅建築は、建主個人の資産であることと同時に 社会全体のインフラでもあるはずです。
そう考えると、2020年東京五輪のメイン会場となる新国立競技場建設が、多額の予算(血税)
による建替新築工事ではなく、現・国立競技場の耐震補強と改修の計画でカッコよくできれば、
逆に象徴的存在となりえたかもしれません。象徴とは、斬新なデザインだけではないはずです。

もう ひつとは 
『新築持家ステップアップ思考』と並ぶ、『住宅に対する新たな基軸』をつくっていくこと。
『新築持家ステップアップ思考』とは、私が勝手に考えてた造語です。
賃貸住宅→分譲や新築住宅。と、人生のステージと共に住宅もステップアップさせる考え方。
くれぐれも、誤解なきようにお願いしたいのですが。
私はこの『新築持家ステップアップ思考』はダメですよ‥。といっているのではありません。
建築家にとっても建主の方との新築住宅の計画は、アグレッシブでやりがいのある仕事です。

ただ、住宅のあり方がこの選択肢だけ、というのも またつまらない。
建築家をはじめとする住宅を造る側の者は、建築を計画する前に、ライフスタイルのあり様
も提案し、選択肢をも示す義務もあるのではないだろうか‥。そんな思いもあるのです。
豊かさとは、選択肢の多さ(…多すぎるのは、よくありませんが)だと考えるからです。

たとえば、(これは私の抱く、まだ おぼろげながらのアイディアではありますが。)
『長期定住型賃貸集合住宅』
入居者の生活スタイルや家族構成の変化に対応した、終の住処となるプライベートスペース。
コミュニティーが付加価値であり、入居していることにステイタスのある賃貸式の集合住宅。
庶民的なレベルで、こんな21世紀の『同潤会アパート』のような住宅ができないだろうか‥。

空き家問題 は ネガティブで深刻な問題ではありますが
見方を変えて、新しい住宅のあり方や価値観を考えてみる、きっかけとするべきでしょう。