2011年10月9日日曜日

下町ロケットとiMac


直木賞受賞作『下町ロケット』がよかった。涙した。

元宇宙航空技術者である主人公・佃航平が、実家である大田区の町工場、
佃製作所のあとを継いだところからはじまる。

じつは、私も大田区の町工場の出身である。
大田区の小さな町工場、といっても本社を中原街道周辺の池上に構えた
売上げ100億近い精密機械メーカーは、ここ糀谷の界隈でキリコと油に
まみれたルーティーンの作業を見てきたものからすれば、じつは羨望だ。
それでも、家業を継続できなかった、いくばくかの負い目があるぶんで、
私は主人公の佃より 帝国重工の財前部長に、感情移入ができた。
(大企業の重役というポジションとのちがいは さておき‥。)

佃製作所は、ロケットのエンジンのコア・バルブシステムの特許をもつ。
民間のロケット打上事業を押し進める帝国重工は、この技術開発の面で
大田区の町工場に先をこされてしまう。
大企業である帝国重工が、取引もない(彼らからすえば)いち零細企業
に特許使用を申し出でるのだが、佃はその申し出を拒否し部品そのもの
の製造納品にこだわる。ロケットの製造に関わるという、彼の夢からだ。
そのことが、社の内外で軋轢をうむ。

作者からの問いかけだ。 さあ あなたなら どうする?

もちろん、
自社の特許使用料を得ることも立派なビジネスであり、ロケット開発の
一翼を担う名誉なはずだ。ただ、佃はメーカーであることにこだわった。

ふと、あることと だぶった。

90年代。経営危機に陥っていたアップル社は、“三顧の礼”をもってして
創業者スティーブ・ジョブスを招き入れた。
彼はMac OS 使用のライセンスを売るんじゃないか‥。私は思っていた。
OSのインターフェイスのスマートさだけでも、Windowsよりはるかに
優れている。Mac  OS を載せたいPCメーカーは、きっと多いはずだ‥。
ちがった。私は、あさはかな凡人であった。

はたして あらわれた製品が iMac であった。
Macは高機能のPCではなく、生活や仕事のスタイルそのものである。
その意味で “パソコン”と呼ばれることに違和感があるのは、ユーザー
であれば、だれしもであろう。
スタイルとは ハードとソフト がひとつとなって はじめて像をなす。
iMacもインテリア的デザインに、スマートなインターフェイスが絡んで
生活や仕事の場面に、ひとつのスタイルをつくっていったとおもえます。


スティーブ・ジョブス さん。
今を 未来を ありがとう。

作者の池井戸潤さんはじめ 下町ロケット 関係者のみなさま
ネタバレ すみませんでした。
映画化のさいには、
佃製作所に竹内結子さんのような、素敵な女性社員をいれてくださいね。